謹賀新年
2015年の干支は「ひつじ」だそうで――
新年のはじまりに、ひつじにちなんだ短いお話しを書きました。
ぜひおつきあいください。
『羊たちの盲目』 泉美木蘭
轟々と燃え盛る人も、虎視眈々と狙いを定めている人も、
いまは休息につとめている人も、足元を着実に固めている人も。
新しいこの年、乗り込み挑んでゆきましょう!
2015年の干支は「ひつじ」だそうで――
新年のはじまりに、ひつじにちなんだ短いお話しを書きました。
ぜひおつきあいください。
『羊たちの盲目』 泉美木蘭
「羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹……ふう、凄い数だ」
村のはずれに、『AIKOKU牧場』と呼ばれる
小さな小さな牧場がありました。
この牧場には、アベェー少年という羊飼いがいて、
迷子になった淋しい羊たちがたくさん寄せ集められ、
大切に飼われておりました。
迷子になった淋しい羊たちがたくさん寄せ集められ、
大切に飼われておりました。
「やあ羊たち。きみたちはモコモコしてかわいくて、
なにより、大人しく群れているから大好きだよ。
一緒にぬくぬくして眠ろうね♪」
羊飼いのアベェー少年が、ぴいっと笛をふくと、
羊たちは一斉に集まり、アベェー少年をあたためるように
囲んで座りました。
囲んで座りました。
アベェー少年は、何年ものあいだ、
羊たちの毛を刈ったことがありませんでした。
そのせいで羊たちはすっかり薄汚れて、
ゴワゴワの毛皮に体を巻かれており、
本当の姿は見えません。
羊たちも、自分の分厚い毛皮のせいで視界が悪く、
外の世界がきちんと見えていないので、
アベェー少年の笛の音だけが頼りでした。
笛の音に従って右へ右へ右へ右へと移動して、
ほかの羊たちと一緒に少年に寄り添ってさえいれば、
ちっとも淋しくありませんでしたし、
大勢の仲間がいて、無敵の羊になれるようにも思えました。
大勢の仲間がいて、無敵の羊になれるようにも思えました。
ある日、牧場が貧乏になって、羊たちの食べる干し草が
買えなくなりました。
羊たちは、飢えてとても不安になりました。
そこでアベェー少年は、わずかな干し草を集めると、
ぴいっと笛を吹いて羊たちを集めました。
「世の中は貧乏で、干し草が買えない牧場もあるけれど、
僕を信じていれば安心だよ。僕は魔法が使えるんだ。
ほうら、見ていてごらん。あまり見えないとは思うけど!」
ほうら、見ていてごらん。あまり見えないとは思うけど!」
アベェー少年は、不思議なダンスを踊りはじめ、
トントントンとその場で何度も足踏みをしてみせました。
すると、どうでしょう。
わずかな干し草がもりもりと膨らみはじめ、
わずかな干し草がもりもりと膨らみはじめ、
みるみるうちに大きな干し草の塊に変わったのです。
羊たちは驚き、大喜びです。
「すごいぞアベェー少年!」
「やっぱりアベェー少年の牧場が最高だ!」
「羊たちをみんなAIKOKU牧場へ呼び寄せよう!」
「羊たちをみんなAIKOKU牧場へ呼び寄せよう!」
羊たちが喜び勇んで駆けだしてゆくのを見て、
アベェー少年は、足踏みをやめました。
すると、なんということでしょう!
膨らんでいた干し草の塊は、一気にしぼんで、
元通りのわずかな量に戻ってしまったのです。
「やーれやれ」
アベェー少年は、干し草のなかに仕込んでいた風船と、
空気入れのついたチューブを引き抜きました。
干し草は、単に空気で膨らませて量が増えたように
見えていただけでした。
アベェー少年の魔法は、チンケなまやかしでしかなかったのです。
見えていただけでした。
アベェー少年の魔法は、チンケなまやかしでしかなかったのです。
「なんとかごまかしたが、次が大変だな。
あの羊どもの毛皮をごっそり刈り取って売ればよいが、
汚らしくてどうせ二束三文にしかならない。
それに第一、毛を刈ってしまったら、
あいつらの視界が良くなって、
俺にとっちゃあ、まったく不都合だからな――」
俺にとっちゃあ、まったく不都合だからな――」
そう言って眉間にしわを寄せるアベェー少年は、
ぱーんと音を立てて、仕込みの風船を憎々しげに踏み割りました。
破れてしぼんだ風船のかけらには、
小さく、小さく、この牧場の名前が書かれておりました。
『BAIKOKU牧場』
「まあ、いざとなったらあいつらジンギスカン屋に売り飛ばすか。
しかし、まずくて食えたもんじゃなさそうだ・・・」
――みたいな事態を避けたいよ。2015年元旦。盲目の羊たちへ、木蘭。